不器用な君が

神に運動神経を奪われた麗しき小説家、「笑ってくれるなら何でもやるよ」ライブ演出と笑いに全力を注ぐクソガキにぃに、人を駄目にする優しさをもって仲間を守る3枚目演じる歩くゼクシィ、そんな不器用な3人を愛する社会人です。東京ドームは徒歩圏内。

回顧録①書評:「吸色のアルビノー加藤シゲアキ『ピンクとグレー』(角川書店、2012年)」

 吸色のアルビノ加藤シゲアキ『ピンクとグレー』(角川書店、2012年)

 

  好きな色、嫌いな色、すべてを吸収し受け入れる勇気は私たちを透明に輝かせる。自分自身の色を受け入れ、それを見せられる人が輝く所以がそれだ。多くの人を惹きつけてやまない芸能人もそう。彼らは人に塗られた色さえも吸収し、ステージで、カメラの前で輝きを放つ術を知っている。それができなければいつか壊れてしまう。そんな華やかで儚い世界に生きる「アイドル」が1人の作家として綴ったのが小説『ピンクとグレー』である。

著者の加藤シゲアキはジャニーズのアイドルグループNEWSに所属する正真正銘のアイドルであり、青山学院に中等部から大学まで在籍していた私たちの先輩でもある。主要メンバー2人の脱退でグループが活動を停止していた間、彼は新たなスタートを切るため、と本作を書き上げた。2012年1月の発売当初、新聞のインタビューで彼はこう話した。「よく聞かれるんですよね。“りばちゃん”は僕で、“ごっち”は山下君かって。でもモデルはいません。僕自身、どちらでもあってどちらでもないんです。」なるほど、大阪出身で少し神経質、ユーモラスな物言いと冷静さ、胸に秘めた激情……たしかに彼は2人どちらとも重なるかもしれない。

スタンド・バイ・ミーみたいだわ。」幼いころの彼らを見守りながら、母親たちはそう言った。河田大貴・鈴木真吾・木本・石川。いつも一緒にいた4人組は程なくしてバラバラになる。りばちゃんとごっちが共に進学し、親友として共に過ごした私立高校のモデルは青山学院。尾崎豊レリーフも点火祭も渋谷に点在するレストランも、細やかな描写を好む著者の性格と3年間通学した私自身の記憶に助けられ、彼がイメージしたであろう景色を歩き辿るように読むことができた。

ひょんなことから雑誌のモデルになって同じ事務所に所属、芸能界に足を踏み入れるりばちゃんとごっち。いつまでも同じ道を歩くかと思われた唯一無二の親友との衝突と離別、束の間の再会。クライマックスに向け、「絶望的に素晴らしいこの世界」に魅せられた2人の人生は、遺されたりばちゃんの手によってその命と引き換えに作品として紡ぎだされていく。私が今読んでいるのは俳優・河鳥大=“りばちゃん”が記した俳優・白木蓮吾=“ごっち”の人生か、それとも加藤シゲアキが記したりばちゃんの人生か……?そう混乱するほどに彼らの人生は深く入り組んでいる。私たちが思う以上にお互いを必要とし、互いが互いの一部とも言える数奇な人生を送った2人。もはや「友達」という言葉では足りないように感じる。それは時に同性愛的にさえ感じられるような、誰にも立ち入る隙のない究極の友情。幼い彼らが流れ星を一緒に眺めるシーンで、姉の事故は自分のせいだと己を責め続けるごっちをなだめるりばちゃんの言葉はまるで彼女や弟をあやすようでもある。「“恋とか愛とかの類ではなくて”たしかなことなどなにもなく、ただひたすらに君がすき」と書かれているその感情はおそらく小学五年生だった彼のとても素直な気持ちで、私たちが理解しようにも到底不可能ではないだろうか。しかしそれでいて、読んでしっくりくるから不思議だ。

本書の著者は紛れもないアイドルであり、無論、執筆は本業ではない。しかしその点で彼は少々特殊で、ウェブサイトや雑誌でエッセイとコラムの執筆経験をもつ。本書に比べればはるかにライトで毎回少し自虐的。その中に本音や信念がさりげなく隠れていたりするから、事実3年以上も私は彼のコラムを読み続けている。文章の随所にその癖というか特徴は現れるもので、まず細やかだがどこか抽象的な描写、そして少し気取った単語と歌うような文章。リバー・フェニックス=りばちゃんといった少々マニアックな言葉遊びが散りばめられているのも彼の趣向で、毎回心をくすぐられる。

私の気に入っているフレーズがある。「横からはだらだら流れる涙と激しい泣き声が聞こえる。彼の涙が不足しないように、僕は自分の分も彼の涙に混ぜた。」まるで歌の歌詞のように、寄り添う2人の幼さと優しさが伝わってくる。それに対照的なのが畳み掛けるように加速していくラスト。もはや息をつく暇がないほどにめまぐるしく変わる情景に読者は舞台の観客となったようにどんどん引き込まれていくのである。伏線も多いが、唯一他章とは違い飲み物ではない上に本文に登場しない最終章「ピンクグレープフルーツ」と、27歳と139日という半端な数字は未だに私を悩ませている。

ごっちにとって絶対の存在だった姉の死とファレノプシス、赦しの流星群、芸能人という足枷のデュポン、好きな色も嫌いな色もすべてを吸収し透明になったアルビノ。キーワードはそれぞれが色を持っているように感じる。“ごっち”として彼の人生を演じることでりばちゃんは彼のすべてを受け入れ、2人はついに透明に、ひとつになる。彼らが魅せられた世界は「やるしかない、やらないなんてないから」という白か黒かの世界だ。しかし栄光と挫折を受け入れピンクとグレーの世界で生きる彼らはきっと誰よりも輝き、今日も大喝采を浴びていることだろう。

 

(2012年当時大学1年)

 

あぁ無茶苦茶に書き直したい……!!笑

けどとりあえず記録用に。